大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1212号 判決
大阪市住吉区苅田三丁目六番八号
控訴人(一審原告)
株式会社アロインス化粧品
右代表者代表取締役
橋本守正
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
今中利昭
同
吉村洋
同
浦田和栄
同
松本司
同
岩坪哲
同
田辺保雄
同
南聡
大阪市西淀川区姫里一丁目九番六号
被控訴人(一審被告)
コスメクリエイトプロダクツ株式会社
右代表者代表取締役
河野克正
右訴訟代理人弁護士
田中英一
同
入江寛
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙(一)記載の包装用容器(以下「イ号物件」という。)入りのアローレンススキンクリーム(以下「被告商品」という。)を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。
3 被控訴人は、前項記載の被告商品を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
6 仮執行の宣言
二 被控訴人
主文同旨
第二 事案の概要及び争点に関する当事者の主張
(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」といい、その他の略称は、原判決のそれによる。)
一 本件は、原告が、後記のA号物件は、その形態の特徴(要部)が、〈1〉容量が一八五グラム入りで、従来の化粧クリームの包装用容器(ほとんどが四〇ないし五〇グラム入り)と比較してやや大きめのものである点、〈2〉容器本体及び蓋体の外面の色彩が従来の化粧クリームの包装用容器にはなかった鮮やかなパール入りの緑色である点、〈3〉雄ネジ部の下端全周に細幅の金色のリング部を設けている点(以下、右〈1〉ないし〈3〉をまとめて「原告主張の容器形態」という。)にあり、原告の商品であることを示す表示として、平成二年初め頃には日本国内において需要者の間に広く認識されるに至っている(周知性を獲得)ところ、イ号物件は、原告主張の容器形態においてA号物件と同じであり、その使用は被告商品と原告商品との間に混同を生じさせ、不正競争行為を構成すると主張して、被告に対し、不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ。)二条一項一号、三条に基づき、被告商品の製造、販売及び販売のための展示(侵害行為)の停止及び侵害行為組成物たる被告商品の廃棄を求めるとともに、同法四条に基づき、被告の不正競争行為により原告に生じた損害の賠償として五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成五年八月一日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し、被告が、A号物件は原告主張の容器形態をもって、原告の商品表示として周知性を獲得しているとはいえない等として争っている事案である。
二 事案の概要(当事者の営業、原告商品の製造販売と包装用容器、被告商品の製造販売と包装用容器)は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」欄一ないし三(原判決四頁三行目から八頁一一行目まで)に記載のとおりである。
【原判決の訂正等】
四頁四行目の「原告株式会社」から五行目の「「原告橋本」という。)」までを「原告は、橋本守正(以下「橋本」という。)」と、以下判文中の各「原告会社」、「原告橋本」をそれぞれ「原告」、「橋本」と各改め、一一行目冒頭から七頁四行目末尾まで及び五行目の「(不正競争防止法関係)」を各削り、八頁二行目の「甲第一三号証の2」を「甲第一三号証の1・2」と改める。
三 争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」欄五(原判決一〇頁七行目から一一頁四行目まで)及び「第三 争点に関する当事者の主張」欄二(原判決一四頁一〇行目から二五頁九行目まで)に記載のとおりである。
【原判決の訂正等】
一〇頁八行目冒頭から一〇行目末尾までを削り、一一行目冒頭の「2」を「1」と、一一頁一行目冒頭の「3」を「2」と、三行目冒頭の「4」を「3」と各改め、一四頁一〇行目の「争点2」を「争点1」と、一七頁六行目の「前記第二の四」を「本判決前記第二の一」と、二二頁三行目の「争点3」を「争点2」と、二三頁三行目の「争点4」を「争点3」と各改める。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、原告主張の平成二年初め頃はもちろん現時点においても、A号物件が原告主張の容器形態をもって、原告の商品表示として周知性を獲得しているとは認め難く、原告の本訴請求は理由がないものと判断する。右認定判断の理由は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の事実及び理由中の「第四 争点に関する判断」欄二(原判決二七頁四行目から四八頁三行目まで)に示されているとおりである。原告が当審で提出した一般消費者が原告のキャンペーンに応じて原告商品に関し回答した葉書(甲第五五号証~第一四〇号証)の内容をもってしても、右判断を動かすものではない。
【原判決の訂正等】
1 二七頁四行目冒頭の「二」から同行の「争点2」までを「争点1」と改め、二九頁一行目の「甲第四四号証、」の次に「第五二号証、」を、一〇行目の「『国際商業』」の次に「、原審証人猿谷秀次」を、三二頁(三)の四行目の「第四七号証」の前に「第四五号証、」を、同じく六行目の「甲第四六号証の1・2、」の次に「第一四一号証、」を、三三頁五行目冒頭の「号証)、」の次に「平成六年九月四日から関西国際空港旅客ターミナルビル内二三か所において原告商品の光ディスク方式によるビルボードTVモニター映像広告(音声付き一五秒間のコマーシャルビデオ・フィルム)を映写したり(甲第一五四号証、検甲第一六号証)、同空港本館二階セキュリティー通路に原告商品の写真入り広告看板を掲示したり(甲第一五五号証、検甲第一七号証)、」を各加え、七行目の「設置するなどして」を「設置したり、平成七年九月から一一月までの三か月間全国三五局の放送局から原告商品のテレビ一五秒スポットコマーシャルを放送する(甲第一四二~第一五〇号証、第一五一号証の1~35、第一五二、第一五三号証の各1~6)などして」と改め、八行目の「証人猿谷秀次」の次に「弁論の全趣旨」を加える。
2 四一頁二行目の「第二五号証」の次に「、第四五号証、第四九号証の1、」を、七行目の末尾に続けて「ちなみに、原告が女性週刊誌に掲載した原告商品の宣伝広告の中には、『上ぶたの彫刻をお確かめのうえ、お買い求めください。』と記載されたものもある(甲第二一号証、第二二号証)。」を各加える。
3 四五頁四行目の「高級感」から六行目の「考えられず、」までを「高級感をアピールするような類の化粧品にあっては、その包装用容器の形態の持つイメージが商品の選択の重要な要因になるが、原告商品や被告商品のように比較的低廉で実用的な基礎化粧品においては、その包装用容器の見た目の形状や色彩は商品選択のひとつの要因にはなるものの、需要者は、」と改める。
【原告の当審における補充主張に対する判断】
原告は、原告商品が不正競争防止法の保護を受けるためには、原告が原告主張の容器形態を有する包装用容器の先使用者であり、その容器(A号物件)が商品の出所をあらわす周知性を有していればよく、その容器が独自の特徴を有することは必要要件ではない旨主張する。
しかしながら、化粧品の包装用容器の形態自体は、本来、化粧品の包装用容器としての機能を合目的的、合理的に発揮するためにあるものであって、その形態自体が直ちに自他商品の識別機能を果たすものではなく、商品の出所である主体を表示するものでもない。したがって、容器の形態が出所表示機能を取得するためには、その形態が新規性や独創性を有することは必ずしも必要ではないが、同じ存在目的を達成する同種の容器の有する形態と異なるもの(相対的な特異性)がなければならず、特徴のある形状、もしくは、当該容器の長期間にわたる独占的使用、あるいは、短期間における強力な宣伝を通じ、その容器の形態が、他者の容器の形態から区別された個性のあるものとして周知となり、特定人の出所を指標するに至ることが必要である。しかるに、前示のとおり、本件全証拠によるも、平成二年初め頃はもちろん現時点においても、A号物件が原告主張の容器形態をもって、原告の商品表示として周知性を獲得しているとは認め難いことは前示のとおりであるから、原告の右主張は採用できない。
二 以上の次第で、原告の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 長井浩一)